社会システムの循環サイクル:生態系のレジリエンスを社会に当てはめられる?

生態システムはエネルギー・資源循環をexploitation (搾取・利用)するフェーズから成長し、規模が一定以上に育ったところでconservation (保全)フェーズに入る。私たちが目で見ることのできる自然の状態、例えば森林の様子などは、このconservationフェーズに安定的にとどまっていることで、その姿を保っている。


その後、何らかの外的ショック、あるいはシステム内部の下位・上位システムでの変化を受けて、保全されたエネルギー・資源はrelease(開放)フェーズに移行する。森林の例でいくと、森林火災のような急激かつ大規模なショックや、温暖化などの気候システムの変化などが作用としてある。


その後にシステムは、reorganisation(再生・再活性)のフェーズへと移り、従来の状態にサイクルする(戻る)か、新しい、以前とは異なる特性を持ったシステムに生まれ変わる。森林火災の場合には、焼け跡また植物が芽を出し、微生物や昆虫の働きで土壌が豊かになり、長い時間をかけて動物が戻り、食物連鎖が回復されて、森林という生態系としてのフル機能を再生していく。このような生態系の持っている循環能力をはadaptive cycle(適応・順応サイクル)として上の図のように示されており、特にconservation(保全)のフェーズにとどまる能力は「レジリエンス」と呼ばれている。


このレジリエンスの考え方を自然と人間がつくる社会生態システムに応用しているのが、レジリエンス研究の最先端になっている。日本人に最も馴染みのある社会生態系システムの例は、里山だろう。農山漁村の居住地域に隣接する山の資源を利用して堆肥づくりや炭焼をするなど、人の手が入ることで、生態系としての循環が自然にとってより好ましい状況でまわるようになる。このように人間の活動が生態系の循環のなかに持続可能な形態で組み込まれているのが里山である。この活動がどの程度ならば生態系が健康にまわるために適当なのかは、何世代も同じ地域の自然と向き合ったなかで人が獲得してきた伝統知ということになる。


さて、このadaptive cycleの循環とシステムを好ましい状況に保つレジリエンスの視点を、社会システムに応用することができるか、というのがシステム思考をベースにしたレジリエンス研究の次のフロンティアだ。生態系は自然界の法則に従ってサイクルしているので、ある個体や下位システムが存続できなくなることも受け入れ、地球という最上位のシステムのなかで変化を受け入れ、順応のための変化を遂げていく。(あるいは地球上のすべての生物が生存できない状態になったとしても、地球はその状態で存在し続ける(のだと思う)。)社会システムでは、そのなかの個々人が個別の世界観と価値規範で行動する能力を有している(agency)ため、システムとしての複雑性が高い。


そう言えば、『渋滞学』という本の最初に「なぜホースの水は渋滞しないのか?」という説明があるが、答えは水の分子は次にどちらに動こうかと考えないし、自身で動かないからだ、とうのがあったけれど、これと同じ例がレジリエンス概念を社会システムに応用するときにも言える。


では、まったく社会システムにはサイクルに関する法則のようなものがないのだろうかというと、そうでもなさそうである。保全フェーズにとどまるシステムととどまれないシステムにはいくつかの違いがあるように思う。


Deep Diveで訪れる社会と、私たちがいる日本の社会をシステムサイクルの視点で見ていくと、社会システムのサイクル特性について何かヒントが見えてくるのでは、という予感がする。

Adaptive cycleの画像かここから引用してます。

(書き手:クドウ)

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